少女地獄 黒薔薇女学院
シナリオ情報
- 推奨プレイ時間: 20分〜40分
- 難易度: 中級者向け(探索・推理)
- テーマ: ゴシックミステリー、百合、狂気
あらすじと登場人物
外界から隔離された「黒薔薇女学院」で、特待生の姫草ユリ子が謎の死を遂げた。探偵であるあなたは校長の依頼で学院へ潜入する。美しい校舎の裏で渦巻く少女たちの嫉妬、狂気に満ちた日記、そしてユリ子に執着する親友・珠世。調査を進めるにつれ、あなたは「ユリ子の死」が仕組まれた恐ろしい復讐劇の序章に過ぎないことに気づく。
主な登場人物(NPC)
- 姫草ユリ子: 亡くなった特待生。周囲の嫉妬と歪んだ愛情に絶望し、自らの死を利用して学院へ復讐する「物語」を遺した。
- 珠世: ユリ子の親友。ユリ子に異常な執着を持ち、彼女の「物語」を終わらせまいと温室で恐ろしい計画を進めている。
このシナリオの特徴と見どころ
美しいゴシック調の舞台設定と、少女たちのドロドロとした情念が交差するクラシカルなミステリーです。学院内の探索(自室、図書室、温室、音楽室)を通して証拠を集め、隠された真実を繋ぎ合わせる推理要素が楽しめます。
プロローグ / リプレイ
黒薔薇(くろばら)女学院――。ああ、何というおどろおどろしい、それでいて蠱惑的(こわくてき)な響きを持った名前でありましょうか。空を突き刺すような尖塔、陰鬱なステンドグラス、そして一年中、むせ返るような甘い香りを放つ黒薔薇の蔓に覆い尽くされた美しいゴシック様式の校舎。そこは外の世界から完全に隔離された、乙女たちの秘密の園(その)なので御座います。しかし、その目も眩むような華やかさとは裏腹に、黒薔薇女学院の生徒たちの間には一体どれほどのドロドロとした嫉妬や噂話が渦巻いていた事か。それを知る者はおりません。
私が探偵としてこの華やかで閉鎖的な空間に足を踏み入れたのは、白髪の校長からの一通の切実な依頼によるものでした。「あの子が死んだのは、事故などではありません。どうか、真相を突き止めてください」数日前、学院が誇る特待生の姫草(ひめくさ)ユリ子が、自室で謎の死を遂げたというのです。警察は事故として処理しようとしているが、校長は納得していないのでした。
私は案内されるままに、薄暗い廊下を歩き、亡きユリ子の部屋の前に立ちました。ギイ……と、油の切れた蝶番を鳴らして扉を開けると、そこには、まるで精巧な人形の家のように、綺麗に整頓されているが、どこか生活感がない部屋がありました。チク、タク、チク、タク……と、壁の柱時計が虚しい時を刻んでいるばかりです。死の直前まで、一人の美しい少女が息をしていた場所だというのに。私は部屋中を這い回るようにして調べました。そして、彼女の机の引き出しは固く鍵がかかっているのを見つけたのです。日記や手紙など、何か手がかりが隠されているかもしれない。私はそう直感しました。
引き出しを開ける前に、私は学院内の他の場所も探索する事に致しました。まずは図書室です。図書室には学院の古い記録が収められておりました。埃を被った分厚い名簿や日誌をめくっておりますと、過去にも、似たような事件があったという噂が事実として浮かび上がって参りました。次に向かったのは、ガラス張りの温室でした。温室には色とりどりの花が咲き乱れているが、中央には毒を持つ植物も栽培されているので御座います。用務員が管理しているが、彼は私と目が合うと何かを隠しているように見え、逃げるように立ち去ってしまいました。彼もまた、この学院の闇の片棒を担いでいるのかもしれません。
私は再びユリ子の部屋に戻り、手持ちの細工道具で引き出しの錠をカチャリと開けました。探索の末、ユリ子の部屋から鍵のかかった日記を発見する事になったのです。ページを捲る私の手に、じっとりと冷たい汗が滲みます。そこには、彼女が特待生であることへの嫉妬、教師からの特別扱い、そして、珠世との間にあった歪んだ友情について綴られていたのです。それは、狂気と絶望に彩られた、姫草ユリ子の呪詛の言葉でした。
『――この日記を読むあなたへ。私はもう、この世の空気を吸っては居りません。ウフフフフ。私が特待生としてこの学院に迎えられたあの日から、恐ろしい少女地獄は始まりました。同級生たちの、あの、蜘蛛の糸のようにネバネバと絡みつく嫉妬の視線! そして教師たちの、あの、ぬらぬらとした爬虫類を思わせる特別扱い! ああ、汚らわしい。けれど……何よりも恐ろしかったのは、親友であった筈の、珠世様で御座います。「ユリ子さん。貴女は私のものよ。永遠に、誰にも渡さないわ」ああ、あの真綿で首を絞められるような歪んだ友情! 私は狂いそうです。アハハハハ……。ですから、ユリ子は、すべてに絶望し、自らの死を演出することで、この偽りに満ちた女学院に復讐しようとしていたのだという事を、ここに記します。日記の最後には、こう書かれているので御座います。「この日記を読むあなたへ。どうか、私の最後の『物語』を完成させてください」』
何という、何という恐ろしい怨念でありましょうか。警察を欺き、事故に見せかけ、そしてこの日記を発見した者に、真実を告発させるという巧妙に仕組まれた狂気の筋書き。私が寒気を覚え、手帳を閉じた、その時、背後で音楽室のピアノが鳴り響くのが聞こえました。ポロロン、ポロロン、チャラン……。珠世が、ユリ子が好きだった曲を弾いているのだ。それは、酷く不協和音の混じった、気味の悪い旋律でした。私は吸い寄せられるように、音の出処――音楽室へと向かいました。
音楽室は、ユリ子がよくピアノを弾いていた場所だといいます。重い扉をそっと開けると、西日に照らされたグランドピアノの前に、一人の女学生が座っておりました。彼女の親友だったという生徒、珠世が一人でいることが多いと聞いていましたが、正に彼女でした。珠世は、私が部屋に入ってきた事にも気付かず、一心不乱に鍵盤を叩き続けておりました。「……珠世さん」私が声をかけると、ピタリとピアノの音が止みました。彼女はゆっくりと振り返りましたが、彼女は何かを知っているようだが、口が堅く、心を開こうとしないので御座います。その目は真っ黒なガラス玉のように濁りきっておりました。
「先生……。ユリ子さんの『物語』は、どうなりました?」珠世の声は、まるで地の底から響いてくるような、空ろなものでした。「私は、日記を読みました。全てを知りましたよ」私がそう告げると、珠世はフフフフフ……と、肩を震わせて笑い始めました。「そう。よかったわ。ユリ子さんも、これで喜ぶ事でしょう。でもね、先生……。ユリ子さんの物語は、まだ終わってはいないのですよ。ユリ子さんは、私のもの。誰にも渡さないわ。永遠に、この黒薔薇女学院の庭で、私と一緒に眠るのよ……。あの温室の甘い毒と一緒にね」珠世の手に、いつの間にか、鈍く光る温室の剪定鋏が握られている事に、私は気付きませんでした。
「先生も、私たちの『物語』の登場人物になって下さるわね? 口封じのための、新たな『事故』の犠牲者として……。ウフフフフ、アハハハハハ!」狂気の笑い声が音楽室に木霊した瞬間、私の首筋に冷たい刃が触れました。ああ、薄れゆく意識の中で、私は悟りました。私もまた、学院の闇に深入りしすぎたため、口封じのために新たな「事故」の犠牲者となってしまうのだと。ユリ子の死は永遠に謎のままとなるのでありましょう。ポロロン……。私の耳元で、再びあの狂ったピアノの旋律が響き始めました。それはまるで、地獄の底で踊る少女たちの、歓喜の歌のように聞こえたので御座います……。
GMからのプレイアドバイス・分岐解説
【クリア条件】 珠世の狂気(温室での心中計画や口封じ)を未然に防ぎ、ユリ子の死の真相を白日の下に晒すこと。
【分岐のヒント】 音楽室で珠世を追い詰める際、証拠(日記や温室の毒)を適切に提示できなければ、逆に珠世の罠に落ちて殺害されてしまいます。
【GMの立ち回りヒント】 プレイヤーの探索行動に対しては、学院の「閉鎖的で息が詰まるような美しさ」を描写してください。NPCとの会話では、核心をはぐらかしたり、プレイヤーを疑うような態度を取ることで、サスペンスを盛り上げると良いでしょう。